もくじ
精神疾患は20歳前に生じることも多い
20歳前傷病とは?
障害年金を受給するには、基本的に20歳から障害を負って医療機関を受診するまでの間に、一定以上の年金納付が必要です。
ただ、生まれた時から身体や知的の障害があった場合や、未成年のうちに病気やケガにより、障害状態となってしまう方もいます。
そういった方の場合、国民年金保険料の納付義務の発生が、障害の発生よりあとになってしまうということになります。
そうなると、必要な納付ができないため、障害年金の受給ができないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。20歳前の傷病には、後述するように特別な取扱いがあります。
ほかにも20歳より前に発生した障害は、20歳以後に障害が発生した障害と障害年金の手続き上、取扱いが異なる点が多いです。
そのため、20歳前傷病や20歳前障害と呼び、他のケースと区別することがあります。
20歳前傷病で申請することの多い精神疾患について
精神疾患は思春期あたりに発症する疾患も少なくなく、初診日が20歳前である方も珍しくありません。
精神医療の分野では「思春期危機」という言葉が使われることがあります。
思春期と呼ばれる頃は身体的に大人に近づくとともに、精神的にも自立しようとする時期であるため、悩みや葛藤などが現れやすいといわれています。そのような不安定な状態が影響し、精神疾患を発症する例も多いと考えられています。
20歳前傷病において、よく見かける精神の障害はいくつかあります。これらは、障害認定基準に該当し、障害がある状態だと認められるケースが多いので、ここでかんたんに解説します。
なお、生涯有病率は、一生のうちに一度はその病気にかかる人の割合を指し、有病率はある時点において、その病気にかかっている人の割合を指します。
精神遅滞(知的障害)
精神遅滞は学術的に用いられることが多い用語で、障害年金の分野では社会的不利益に焦点を当てた知的障害と呼ぶことが多いです。
発生率はおよそ2%といわれており、障害者手帳や知的障害者施設の利用から確認されている知的障害者は全人口のおよそ46万人。このうち85%が軽度知的障害との診断を受けている人たちです。
軽度知的障害を抱えていても、教育や訓練を経て社会的に適応でき、生活上の支障がない場合は、精神遅滞と診断されないことになっています。
発生時期の多くが出生前・出生直後あるいは時期不明であるため、実際の初診日がいつであれ、障害年金の手続き上は基本的に出生日が初診日となります。
広汎性発達障害
主にコミュニケーションの困難さや、こだわりの強さから日常生活や社会生活に支障をきたす障害を指します。自閉症スペクトラムやレット症候群などがサブカテゴリーとして位置づけられます。
有病率は1%ほどで、生まれつきの脳機能の障害ですが、初診日は出生日ではなく、医療機関にはじめてかかった日となります。
うつ病
うつ病の生涯有病率は、3~16%だといわれています。
全体の有病率が3~11%、20歳未満に絞り込むと、児童期で0.5~2.5%、青年期で2.0~8%の有病率が示されています。20歳以降と比べても、未成年で発症する事例は思った以上に高いのです。
うつ病は診断にばらつきがあるため、資料ごとに大きく数字が違いますが、いずれにしても子どもと呼ばれる年齢を含め、成人前のうつ病発症は珍しくないことが分かるかと思います。
統合失調症
統合失調症の生涯有病率は、0.7~1%となっています。また、発症が多いとされている年代は、10代後半の思春期から青年期の30代となっています。
なかでも、統合失調症の発症のピークは、10代後半から20代といわれているため、20歳前に初診日があるケースもめずらしくありません。
参考文献
- 内閣府「障害者白書 平成24年版」
- 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」
- 厚生労働省「子どもの心の診療医」テキスト
20歳前傷病における障害年金の受給要件とは
20歳前に初診日がある方が障害年金を申請する際は、20歳以上の方の場合と同じ部分も多くあります。
しかし、決定的な違いもありますので、20歳前に傷病を持った方やその家族は、要件を理解しておくことが大切です。
障害認定日は20歳に達した日となる
障害認定日とは、原則的に初診日から1年6か月が経過し、その際に障害がある状態だと認められた日のことを言います。しかし、20歳以前に初診日があり、すでに1年6か月が経っている場合は、該当者が20歳に到達した日が障害認定日とされます。
ただし、初診日が20歳以前にあったとしても、20歳に到達した日に、まだ1年6か月が経過していない時は、それに到達した日が障害認定日となりますので、その違いを確認しておいてください。
なお、20歳に到達した日は誕生日の前日です。2月1日生まれだった場合、1月31日が20歳到達日となります。
当社の認定日算出ツールでは、誕生日と初診日を入れるだけで認定日における診断書現症日が計算されますので、ぜひご利用ください。
国民年金保険料の納付は要件に問われない
障害年金は、国民年金の保険料を財源としています。そのため、障害年金を申請する際は、国民年金保険料を納付しているか否かが問われます。しかし、国民年金は20歳に達した方が支払う義務がある制度です。
そのため、20歳以下の時に初診日がある方は、当時年金の支払い義務は生じていなかったということになります。そこで、20歳前傷病の場合は、保険料の納付要件は問われないことになっています。
ただし、20歳頃に初診日がある方については、慎重に確認をする必要があります。なぜなら、初診日が19歳だと思っていたけれど、実際には20歳1か月だったということもあるからです。
20歳前傷病は障害基礎年金になる
20歳前に厚生年金に加入し、その間に初診日がある場合を除き、20歳前に初診日がある場合は、障害基礎年金
の請求しかできません。
そのため、受給には障害の状態が2級相当である必要があります。
20歳以前に厚生年金に加入していた場合は、障害厚生年金の対象になる
20歳以前でも、中学や高校を卒業後に就職し、厚生年金に加入していた方もいるでしょう。もちろん、その間に心身の不調が生じ、初診日があるケースも存在します。
20歳未満でも厚生年金に加入していた場合は、受給要件を満たせば障害厚生年金を受給できます。所得制限もなく、年金支給額も異なってきます。
該当するかあいまいな方や、手続きに不安な方は、社会保険労務士などの専門家に協力を得ながら進めていくとよいでしょう。
20歳前の障害年金申請には所得制限がある
20歳以前に初診日がある方は、当時国民年金保険料の納付義務がなかったことから、保険料を納付していない状態となっています。そのため、20歳前傷病には所得制限が設けられています。
20歳以降を初診日して申請した障害年金には、所得制限がなく、働きながらでも年金を受給することは可能です。
20歳前傷病の場合も、働きながらの障害年金年金受給は可能ですが、以下のような所得制限があります。
単身世帯(扶養家族がいない場合)のケース
所得額が360万4千円を超えた場合は、支給年金額の1/2が支給停止となります。また、462万1千円を超えてしまうと、全額支給停止となります。
しかし、あくまでもこの数値は単身世帯の例ですので、2人世帯や扶養家族が老人扶養親族などの場合は、所得制限額が加算されることがあります。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士