「障害年金は一発勝負」?
障害年金について調べてみた方は、「障害年金は一発勝負!」という表記を見たことがあるかもしれません。
大げさと思われるかもしれませんが、障害年金の請求において初回が非常に重要であることは間違いありません。
まずは、以下に精神障害における障害年金の請求方法について見ていきましょう。
認定日請求
障害年金は、受給要件のひとつとして、初診日より1年6か月を経た時点で、障害の状態にあると認められることが必要になります。
したがって、この時点での障害年金が最も早いタイミングであり、可能であれば障害年金を請求するのがベストであることが大半です。
この請求方法は障害年金の基本である「認定日請求」と言われるものです。
一部、1年6か月後が認定日でなくなる傷病がありますが、精神の障害においては当てはまりません。
例えば、初診日が【平成31年4月1日】だとしたら、1年6か月後の【令和2年10月1日】が障害認定日となります。この認定日から、3か月以内の診断書を年金請求書に添付して請求を行い、請求の結果、障害の状態に当てはまれば、障害年金の受給権が発生します。
障害年金の受給は、認定日を含む翌月分から支給されますので、この場合は【令和2年11月】から支給されるということになります。
認定日請求は1度きり
この認定日請求を行えるのは基本的に1度きりです。ここで不支給となった場合、障害認定日の再請求は可能ですが、審査上の瑕疵がない限り認定される可能性はほとんどありません。
さらに、この請求において「納付要件を満たさない」と判断されると、今後、同一傷病での障害年金の受給そのものが不可能になります。
これが「障害年金は一発勝負!」初回請求が重要であると言われる理由です。
遡及請求
認定日請求は、たとえ請求の時期が大幅に遅れても、年金を最大で5年分遡って、受給することが可能です。これを「遡及請求」と言います。
5年より以前については、時効となり支給を受けることはできません。
認定日当時に体調悪化で請求どころではなかった、障害年金制度を知らなかったなどの理由で、障害認定日に障害年金を請求できなかった場合に、障害認定日から1年以上経過したあとでも障害認定日に遡って請求できるのが、「遡及請求」です。
遡及請求を行う場合は、障害認定日から3か月以内の診断書と請求時点での診断書の合計2通が必要になり、受給権は障害認定日から発生します。
先ほど述べたとおり遡及請求は認定日請求であるため、基本的に1回しかできません。
遡及請求での初回振込額(遡及分+最初の年金)は人によっては約1,000万円(当社事例)にもなります。
ご自身で行っても確実に受給できるというのでなければ、遡及請求をお考えの場合はまず社会保険労務士にご相談されることを強くおすすめします。
もし、遡及請求が不支給とされると、あとからでは覆すことが難しくなります。
不服申し立て(審査請求や再審査請求)をしても、認められるケースは確率としては高くはありません。
また、人によっては認定日当時の障害状態が軽く、遡及請求ができる見込みがほぼないということもあるでしょう。
その場合、「無理に遡及請求をして時間を使い、やはり遡及できなかった」となるより、後述する事後重症請求に切り替えて早く受給した方が、結果的に受給額が多くなることが見込めます。
事後重症請求
事後重症は、障害認定日に障害の状態に該当していなかったけれども、その後悪化して障害の状態に該当した場合に行う請求ですが、以下のようなケースでも行うことがあります。
- 障害認定日時点で病院を受診していなかった
- カルテ廃棄などで、障害認定日から3か月以内の診断書を取得することができなかった
- 認定日に請求を行ったが、障害状態にないとして不支給になった
事後重症請求の場合は、請求時点での診断書が必要となり、障害年金の支給は請求日を含む翌月からとなりますので、できるだけ早く請求することが大切です。
また、請求期限は、65歳になる日の前日までとなります。さらに、事後重症請求の場合は遡及して受給することはできません。
遡及請求をする際には、「認定日が認められないのであれば、事後重症での審査をしてください」という形で同時に事後重症請求を行うことがほとんどです。
一部例外として、認定日の診断書をあとから取得できた場合など、事後重症請求後に認定日請求を行うことがあります。
事後重症請求は、不支給とされたあとも再請求を行うことができます。制限はありませんが、不支給とされたときの情報も再請求時に参考にされます。そのため、前回と同様の理由で不支給とされる内容になっていないか、あるいは不支給とされないために書き直した内容が前回と著しく乖離していないかなど、入念な準備が必要になります。
すべての請求に共通することですが、「年金の納付要件を満たしていないため、受給権がない」となった場合は、今後、同一障害での障害年金受給ができなくなります。
はじめて2級による請求
2級以上の障害に満たない程度の状態の方が、新たな傷病(基準傷病)にかかり、65歳になる日の前日までに、それら2つ以上の障害を併せて2級以上該当した場合に請求することを、「はじめて2級」による請求と言います。
はじめて2級による請求を行う場合、請求日以前3か月以内の基準傷病とそれ以前の傷病の合計2通の診断書が必要です。受給権の発生は、複数の障害を併合して2級以上になったときですが、障害年金の受給は、請求手続きを行った月を含む翌月分からとなります。
はじめて2級による請求の場合、65歳前に2級以上に該当しているため、請求期限は65歳以後でも問題ありません。
20歳前傷病による請求
20歳より前の時点に初診日があるケースは制度上の取り扱いに異なる点が多いため、「20歳前傷病」と呼び、他の請求と区別することがあります。
20歳前傷病による請求を行う場合、障害認定日の前後3か月以内の診断書が必要になります。
初診日から1年6か月時点も20歳未満であった場合は、20歳に達した日が障害認定日となり、初診日が20歳前で、初診日から1年6か月後が20歳以上である場合は、そこが障害認定日となります。
この請求は20歳より前の傷病によるものなので、保険料納付の義務については問われません。
不服申立てが通る確率は15%以下
特に初診日が認められなかった場合、遡及請求が認められなかった場合は、不服申立てを行うことが多くなります。
しかし、社会保険審査会の再審査請求で請求側の主張が認められる確率は、厚生労働省の発表で
平成28年度 14.9%(322/2,161件)
平成29年度 12.3%(229/1,848件)
平成30年度 13.7%(204/1,480件)
となっています。
この数字からも、初回の請求で通らなかった場合、次のチャンスがかなり狭き門であることが分かるかとおもいます。
そのため、障害年金の申請はなによりも初回にしっかりと書類を揃えることが大切なのです。
特に遡及請求を考えている方や受給要件に不安のある方は、「とりあえず自分でやってみよう」と請求してみるのではなく、専門家への相談をおすすめします。
障害年金をスムーズに請求するために
精神の障害は症状に波があり、必ずしも障害認定日に請求をする状態に該当するとは限りません。ですが、いずれ障害年金をと考えているのであれば、できる限り早く初診日を証明するための「受診状況等証明書」を、初診時の病院で作成してもらいましょう。
診断書と違い、受診状況等証明書には期限がありません。
初診日の証明ができないと、後々いざ診断書を準備しようと思っても、初診日のカルテが破棄されていたなどの理由で、結果的に診断書も手に入らないということも少なくありません。
まとめ
障害年金の請求がしづらい状態になってしまわないために、どのような請求方法を選ぶとしても、初回の請求時には慎重になることが必要です。
障害年金の請求には、複雑な手続きが必要となります。きちんと書類を揃えていなかったり、整合性のない診断書を添付するなど、軽い気持ちで提出したら、後悔の元になってしまうこともあります。
初回に請求する時は、将来のこともしっかりと考えたうえで行動を起こしましょう。
また、1人で書類を集めたり、請求作業をしたりすることが難しいと感じたら、豊富な知識と経験のある社会保険労務士などに協力してもらうことも重要だと言えます。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士