もくじ
はじめに
障害年金審査において、医師の作成する診断書が最も重要であることは言うまでもありません。
障害状態を判定する診断書がなければ、障害年金申請そのものができないことになります。
「診断書を書いてくれない」という悩み
当社の無料相談で多い質問のひとつが「障害年金を申請したいけれど、精神科クリニックの主治医が診断書を書いてくれない。諦めるべきでしょうか?」といったものです。
確かに、受診状況等証明書(初診日証明)、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療などの診断書に比べて、年金診断書は断られる割合が高い傾向にあります。
ここでは、年金診断書の作成を拒否する医師の背景とその対処法を説明します。
ほとんどの精神科医師は、患者の求めがあれば診断書作成に承諾してくれます。
治療効果を高めるため、障害年金を含めた社会福祉制度を積極的に活用しているクリニックは、私が知る範囲でも複数存在します。
しかしながら、障害年金の診断書作成を断る医師も一定数存在するのが事実です。
精神の病を抱えると、考え方がマイナス思考に陥りがちになります。医師から診断書作成を断られると、受給資格があるにも関わらず、悲観的になり障害年金申請を諦める方もいます。
この記事は、そういった方が選択肢を見つけ、障害年金申請への可能性を広げてもらうことを目的としています。
拒否する理由とは
医師の障害年金に対する誤解、思い込み
- 「審査が厳しくなっているから、あなたの病状では無理」
- 「働けているから年金は対象外」
- 「年金は入退院を繰り返している人が受け取るもの、あなたはそれほどではない」
など言われてしまうと、先生がそう言うのだから、無理なのかな・・・。と諦めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、医師は障害年金の専門家ではありません。毎年のように改定される認定基準を把握し、2級と3級を分けるポイント、審査に不利になる文言等を理解されている先生はほとんどいらっしゃいません。(まれに、専門家並みの知識をお持ちの先生はいらっしゃいます)
医師にとってはハイリスクだから
精神障害の診断書には(当然かもしれませんが)検査数値を記入する箇所は無く、ほぼ100%医師の主観による判定となります。
そのため、検査数値項目があり、ある程度客観性が担保される身体の外部障害、内部障害の診断書作成に比べ、医師の負担は大きいものとなっています。
しかも、審査において最も重視される「日常生活状況」(食生活、清潔保持、金銭管理など)は普段の診察で確認している医師は少ないと思います。そうすると、どうしても印象や他の患者との相対評価になりがちで、実態とは異なる内容の診断書となる場合があります。
また、忙しい時間をやり繰りして作成した診断書でも、審査に通るとは限りません。
不支給になった患者から、「先生が書いた診断書のせいだ」と責任を問われたことや、支給決定した途端、通院してこなくなったという話も聞いたことがあります。
リスク回避の観点から、審査に通るか、通らないかのボーダーラインにいる患者の診断書作成は避けたいという心情は理解できます。
単に面倒である(時間がない)
- 「年金をもらうと安心してしまい、自己治癒力を削ぎ落し社会復帰が遠のく」
- 「ひとりに書いてしまったら、すべての患者に書かなくてはならなくなるので、年金診断書は一切書きません」
- 「この程度で年金を払っていたら、みんなが受給してしまい年金が枯渇してしまう」
これらは、私が直接、または相談者を通して聞いた医師の発言ですが、本気で言っているとは思えません。
(本気だとしても、患者が持つ法律で定められた年金請求の権利を否定することはできません)
これら飛躍した理由で断る場合は、「面倒である」、「時間がない」というのが本音だと思います。
確かに精神障害の年金診断書は記載項目も多く、また「発病から現在までの病歴及び治療の経過、内容、就学・就労状況等」を記入するためにカルテを最初から読み込む必要があります。すべての項目を丁寧に記載するには1枚あたり1~2時間はかかると思います。その時間を診察時間に当てはめれば、5~10人の患者を診られる計算になります。
つまり、効率性だけで考えれば、医師にとって診断書作成の優先順位は高くないことは想像がつきます。
拒否されたときの対処法
医師宛てに手紙を書く
限られた受診時間に、口頭でご自身の想いを伝えることは難しく、不安や緊張から体調を悪化させてしまうことも考えられます。
自身の想いを手紙にして渡すことが効果的な場合があります。
下記は、手紙の構成例です。
- 働くことができず、経済的不安に苛まれ病状が悪化している(現状)
- 将来、体調が安定したとき、社会復帰を希望している(未来)
- 今は年金に頼り、安心して治療に専念したい(手段)
言うまでもなく、医師の仕事は病気を治す(寛解させる)ことです。患者のストレス要因(経済的不安)を取り除き、安心して治療に専念できる環境づくりのためなら、協力してくれる可能性はあります。
医師の負担を軽減させる
医師が、患者の「日常生活状況」を把握し、スムーズに診断書が書けるよう、事前に資料を作成することが効果的です。
具体的には、診断書の「日常生活能力の判定」にある7項目(適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性)に関して状況を書き出します。
その他、病歴・就労状況等申立書を事前に作成します。医師がどこまで参考にするかは内容にもよりますが、こういった資料を事前準備することは医師の診断書作成への物理的及び心理的負担を軽減することに繋がります。
この項目でどういったことが問われているのか、何を書けばいいのかについては、関連記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
セカンドオピニオン・転院を検討する
様々な方法で協力をお願いしても、医師が理解を示してくれない場合もあります。
さらに治療もうまくいっていないようであれば、セカンドオピニオンや転院を検討してもいいでしょう。
かつて、診断書作成を断った医師に内容証明郵便を送付し、医師法第19条2項の「診断書交付義務」を根拠に医師へ診断書作成を迫った社労士がいると聞いたことがあります。これは明らかにやりすぎです。社労士の役割は、依頼者の病態が適切に反映されている診断書を入手することです。
たとえ入手できたとしても、内容証明郵便を受け取った医師が書く診断書に、そのことが期待できるでしょうか。
転院を検討する場合の注意
転院しても、すぐに診断書を書いてもらえるわけではありません。一般的に3か月~半年程度の経過観察期間が必要になります。
しかし、理解を示さない医師に診断書作成を促すよりも良い結果に繋がる可能性は高いです。
ただ、治療がうまくいっているのであれば、障害年金のためだけの転院はおすすめできません。
社労士の活用を検討する
医師が診断書を書かない理由と、それに応じた対処方法は多く存在します。しかし、病気を抱えている方が上記の対応をとることは、とても難しいと思います。そのような時は一人で悩まず我々障害年金専門の社労士に相談してみてください。
同様の悩みを抱えた方からのご相談も多く、状況に応じて適切な解決方法をご提案できるかもしれません。また、社会福祉制度の活用に理解のあるクリニックを紹介できる場合もあります。
ただし、障害年金のためだけの転院はおすすめしておりません
例えば、当社では、診断書を作成する医師の負担軽減のため、依頼時に参考資料を添付しています。
基準をご存じない医師には、厚生労働省が作成している診断書作成医用の記載要領などをご案内することもあります。
医師の協力が得られず、診断書が取得できないとき、障害年金申請を諦めることは簡単です。
ぜひ、諦める前に一度、ご相談ください。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士