気分障害は感情障害ともいい、主にうつ病・双極性障害(躁うつ病)の2つに分けられます。
本ページではそのうち、躁病、双極性障害について解説します。
もくじ
気分障害とは
気分や感情と聞くと、自分の意思でコントロールできるような印象を受けるかもしれませんが、この感情は表面的なものではありません。
誰しも悲しいことがあれば落ち込み、楽しいことがあれば気分は高揚します。その瞬間に表情に出さないことはできても、心の中で落ち込まないこと、喜ばないことが非常に困難であることは分かっていただけるかと思います。
気分障害(感情障害)は、気分の落ち込みや高揚がコントロールができない状態が続き、就労や人間関係、日常生活に困難をもたらすものです。
双極性障害はかつては躁うつ病といい、気分が高揚する躁状態の時期と、気分の落ち込むうつ状態の時期を繰り返します。
躁病はICD-10において、1回だけの躁状態に対してつけられるものとされています。そのため、障害年金を考える状態の方に、この病名がつくことはほぼないでしょう。
うつ病、持続性気分障害・気分変調症は別ページにて解説しています。
認定基準
この認定基準は2018年5月17日時点で厚生労働省・日本年金機構が発表しているものです。
『国民年金・厚生年金保険障害認定基準』では、統合失調症とまとめられていますが、当サイトでは見やすくするため別表としています。
- (1)各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりである。
障害の程度 障害の状態 1級 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの 2級 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの 3級 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの - (2)気分(感情)障害は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものである。したがって、現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮する。
また、統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。- (3)日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
- (4) 人格障害は、原則として認定の対象とならない。
- (5) 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又はそううつ病に準じて取り扱う。
出典:厚生労働省・日本年金機構「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」
障害年金における「双極性障害」の認定基準の留意点
就労について
労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事しているものについては、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえて日常生活能力を判断する。
「国民年金・厚生年金 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」
いわゆる新ガイドラインでは上記のように考慮するとされています。
一見、数値だけで判断せず、しっかりと診断書や病歴・就労状況等申立書の内容を見て審査されるように思えます。
しかしながら、少なくとも精神障害においてこれらの点は十分に考慮されているとは言い難いのが現状です。
特に、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず」、これについては全くと言っていいほど考慮されないことがあり、当社では何度も不服申立てを行っています。
認定日に障害状態が2級であったにも関わらず、そののちに躁転し一時的に就労したという記載をもとに、認定日不支給となったケースもあるくらいです。
就労について記載する場合は、就労に関する困難や配慮があれば、それらを必ず書きましょう。
できれば、診断書にも就労の困難や配慮について書かれているのが理想です。
不安があるのであれば、専門家への相談をおすすめします。
躁状態について
双極性障害の躁状態については、表現に注意が必要です。
躁転したときのできごとだって、病気の症状であり、非常に辛いものです。
しかしながら、障害年金の審査においては回復でもしたかのような扱いを受けることがあり、書けば書くほど不利になると言うほかありません。
上の項目で述べたように、躁状態による就労(しかも認定日後の就労)によって、認定日が不支給になったケースがあるほどです。
うつ状態も躁状態であっても、病気の症状であり、辛いことには変わりありません。
ですが、障害年金においては、躁状態のエピソードよりは、うつ状態のエピソードについてを重点的に思い出していきましょう。
診断名とICD-10コード
以下の「躁病・双極性障害に該当する診断名」をじっくり見てくと、F30.0 軽躁病、F31.7 双極性感情障害、 現在寛解中のもの、F32.0 軽症うつ病エピソードといったように、その症状が現在軽症に収まっていることを示すコードがあることが分かります。
このようなコードが書かれている場合は、障害認定される可能性は低いです。
ただ、その場合は受給を諦める前に、それが診断書の他の部分やご自身の実際の状態と合致しているかを確認しましょう。
下の表を見ていただければ分かりますが、ひとつの診断名でも細分化された項目数が多くあります。ご本人の申告と乖離があると感じ、医師に確認したところ、コードを書く際に書き間違えてしまっただけだったというケースもありました。
また、ご自身や周囲の認識と明らかに違っている場合は、医師に確認する必要があるかもしれません。
認定の傾向
双極性障害では、気分安定薬の処方量が特に障害厚生年金の等級審査に影響します。
新ガイドラインによる障害等級 の目安が2級であっても、処方薬が初期量だと軽度と判断され3級になることがあります。
処方薬が初期量で2級認定を目指す際は対策が必要となります。
躁病・双極性障害に該当する診断名
IDC-10において躁病および双極性障害は、F30-F31に該当し、下記のように区分されています。
NOSはnot otherwise specifiedの略で、「詳細不明」または「性質不明」であることを示します。
F30 躁病エピソード
- F30
- 躁病エピソード
- 【含有】
双極性障害、 単発性躁病エピソード - F30.0
- 軽躁病
- F30.1
- 精神病症状を伴わない躁病
- F30.2
- 精神病症状を伴う躁病
- 躁病(下記の症状を伴う):
・気分に一致する精神病症状
・気分と一致しない精神病症状
躁病性昏迷 - F30.8
- その他の躁病エピソード
- F30.9
- 躁病エピソード、 詳細不明
- 躁病 NOS
F31 双極性感情障害(躁うつ病)
- F31
- 双極性感情障害
- 【包含】
躁うつ病
躁うつ病性精神病
躁うつ病反応 - 【除外】
双極性障害、 単発性躁病エピソード(F30.-)
気分循環症(F34.0) - F31.0
- 双極性感情障害、 現在軽躁病エピソード
- F31.1
- 双極性感情障害、 現在精神病症状を伴わない躁病エピソード
- F31.2
- 双極性感情障害、 現在精神病症状を伴う躁病エピソード
- F31.3
- 双極性感情障害、 現在軽症又は中等症のうつ病エピソード
- F31.4
- 双極性感情障害、 現在精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード
- F31.5
- 双極性感情障害、 現在精神病症状を伴う重症うつ病エピソード
- F31.6
- 双極性感情障害、 現在混合性エピソード
- 【除外】
単発性混合性感情エピソード(F38.0) - F31.7
- 双極性感情障害、 現在寛解中のもの
- F31.8
- その他の双極性感情障害
- 双極性Ⅱ型障害
反復性躁病エピソード NOS - F31.9
- 双極性感情障害、 詳細不明
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士