もくじ
障害年金診断書を記載してもらう時に重要となる部分とは
障害年金の診断書を記載してもらう際には、初診日や病歴、現在の診断名などが重要な事柄となります。
それらと同様に、今現在の障害の状態がどのようなものであるのかが明確に記されていることが大切です。
障害年金の受給には、病気の影響で日常生活にどのような支障をきたしているのかという視点が重視されます。それによって、障害の程度が判断され、1級~3級の障害等級の判定の決定がなされるのです。
障害年金の診断書(精神の障害用)には、裏面に申請者の日常生活状況について医師の意見を求める、「10障害の状態 ウ 日常生活状況」という部分があります。この欄は、申請者が自力かつ自発的に日常生活をどの程度スムーズに送ることができるかを判断する箇所でもありますので、しっかりと医師に状態を伝え、審査する側にも伝わるように作成してもらうことがポイントとなるのです。
「2 日常生活能力の判定」は単身かつ支援がない状態を想定する
診断書にも「判断にあたっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断してください。」と赤字で書かれているのですが、割と見落としがちなのがこの部分です。
また、医師向けの補足資料には「日常生活能力の制限の度合いを適切に把握するため、入所施設やグループホーム、日常生活上の援助を行える家族との同居などにより、支援が常態化した環境下で日常生活が安定している場合であっても、単身でかつ支援がない状態で生活した場合を想定し、その場合の日常生活能力について記載してください。」とあります。
1日3食を家族に用意してもらって、風呂の支度や掃除も家族がすべてやってくれているおかげで、バランスの良い食事、清潔な環境が整っているという場合は、もしそれらが全てなかったら、本人だけで行う能力があるか? ということを考えてみてください。
「今までずっと家族頼りでやってみたことがないからできない」ではなく、やってみたらできそうか? という視点で見ます。
障害年金診断書の日常生活能力を伝える際の注意点
障害年金を申請する時は、自分の生活状況をできる限り詳しく、医師に伝える必要があります。実際にできないことがあっても、恥ずかしさや遠慮から本当のことを言いだすことができないという方もいるかもしれません。また、上手く状況を伝えることができなかったため、医師も理解が十分にできないまま診断書を作成してしまうこともあるでしょう。
しかし、そのようなことになってしまうと、事実とは異なる診断書を提出しなければならない状態になります。そのため、自分の現在の状態をありのままに、正直に伝えることが大切です。
なお当社では、ご依頼者やご家族などにヒアリングを行い、診断書作成依頼時にお渡しいただく参考資料を作成しています。
日常の困難を診断書に沿ってまとめ、医師が日常生活を把握しやすくなるよう工夫しています。
日常生活能力の解釈
それでは、実際の診断書(精神の障害用)の「ウ 日常生活状況 2 日常生活能力」の項目を見ながら、その質問が知りたがっていることと、どのような解釈をすれば良いのかを見ていきましょう。
(1)適切な食事
この項目は今現在、適切な食事自体を摂っているかを聞いているものではありません。もし申請者が単身で援助もなく生活をしたとしたら、栄養バランスや量、タイミングなどを考えた食事を自分で準備したうえで、食べることができるかどうかを聞いているのです。
つまり、家族が3食用意して、それを言われたとおりに食べる事しかできないのであれば、この項目は「できる」という判断にはなりません。
満腹感が分からないせいで食事量が過剰であったり、1日の食事回数が3回に満たない、好き嫌いではなく病気のために食べられるものが著しく限られているといった状態が病気のために続くのであれば、それらをしっかりと医師に伝えましょう。
1日2食にする、炭水化物を抜くといった一般的でない食生活でも、ダイエットや健康のためと考えて取り入れている場合は、それをもって適切な食事ができないと表現することはできません。
(2)身辺の清潔保持
この項目も、基本的には上記の食事の解釈と同じです。
例えば、申請者が入浴をする際に、着替えや湯船にお湯を入れるなどの準備をし、シャンプーや石鹸を使って髪や体を洗い、濡れた体をタオルで拭いた後に着替えを行い、髪をドライヤーで乾かすなどの一連の流れを適切・自発的にできるかどうかを尋ねています。
もちろん、美容法として石鹸を使わない、髪が短いからドライヤーの必要がないといった場合は、それを理由に「できない」とはいえません。
本来はやりたいことであるけれど、病気のせいで難しいというのがポイントになります。
もし、家族から何度も身の回りのことを促されたり、手伝ってもらうようであれば、「できる」には該当しないことになります。
逆に強迫性障害などで肌が荒れるほど入浴回数が増加している場合も、適切に清潔保持ができているとは言えないでしょう。
また、この項目では、着替えや掃除、整理整頓ができるかどうかも問われています。
(3)金銭管理と買い物
この項目では、ひとりだけで金銭を管理し、収支のバランスをとったやりくりをし、一人での買い物、計画的な買い物ができるかを問われます。
支出を抑えている=できるとはなりません。この支出の抑え方がムダを省くという合理的なものであれば「できる」と考えていいでしょうが、「支出が怖いので、食事をほとんど摂らない」「買い物への意欲が湧かないので、買い換えずにほつれた服を着続けている」といった場合は、バランスがとれているとは言い難いでしょう。
また、計画的な買い物とあるとおり、収入に見合わない衝動的な買い物を繰り返す、生活に困るような高額な買い物をするなどといったことがあれば、独力での金銭管理は難しいと言えます。
依存症や脅迫観念による浪費は、ここでの判断に含みません。
(4)通院と服薬(要・不要)
まず、知的障害以外でこの項目に「不要」がある場合は、特別な記載がある場合を除き、障害年金の受給は難しいことが多いです。なぜなら、知的障害以外の精神の障害の対象疾患は、薬物治療が一般的であるためです。
また、この「通院」「服薬」は主に申請する傷病に関するものを指します。
過剰服薬や飲み忘れがあるため、家族に管理してもらっている。医師と対面すると慌ててしまい、病状について話すことができないなどといったことがあれば医師にしっかりと伝えておきましょう。
(5)他人との意思伝達及び対人関係
この項目では、家族以外の他者とのコミュニケーションついて問われています。
例えば「理解力が低下しているため、対面でも文面でもコミュニケーションが難しくなった」「相手の言葉の裏が読めずにトラブルになってしまった」「3語文程度しか話すことができない」「協調性がなく孤立している」といった困難があれば、医師に伝えておきましょう。
また、性格なのか障害なのかが分からなくても、「友人を作るのが難しく交友関係が狭い」「あちこちで友人を作るが全く長続きしない」といった困りごともあれば、話しておいてもいいでしょう。
(6)身辺の安全保持及び危機対応
診断書(精神の障害用)のこの項目には「事故等の危機から身を守る能力がある。通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなど含めて、適正に対応することができるなど。」と書かれています。
最初に述べていますが、これらの判断基準は「単身かつ支援もない状態である」ことを前提としています。周囲に家族や介助者がいない場合に、危機回避できるかどうかという点を考えていきます。
安全保持
ここでいう安全保持には、自傷行為や他害については含みません。これらは「⑩ 障害の状態」のア欄およびイ欄に具体的に記載してもらいます。
道具や乗り物の危険性を理解し、適切な方法で使用できるかどうかが安全保持における注目ポイントです。
たとえば、注意力が低下しているせいで車の前に飛び出してしまった、コンロの火を消し忘れてしまい火事になりかけた、刃物を落とすことがたびたびあったといったことがあれば、医師に伝えましょう。
危機対応
年金機構が公表している医師向けの資料によると、ここでいう危機は火事や地震などを想定しているようです。
本人が巻き込まれたときに周囲に助けを求められるか、また、その周囲の指示に従って的確に行動することができるかといったことが問われています。
コミュニケーションに困難を抱えているため、他者に助けを求めることができない、指示通りに動くことができないということが想定されるのであれば、判断はできないになるはずです。
(7)社会性
社会性は、集団生活においての困難を知ってもらうための項目です。
社会生活に必要な手続きができないケースとしては、規定の書類に記入して提出するだけの住民票の請求も難しくてできない、他者との会話ができないため窓口での手続きができないといったことが想定できます。
公共交通機関の利用でよくお聞きするのが、「思考力が低下し、乗り換えの仕方が分からなくなった」「時刻通りに電車が来ないとパニックを起こしてしまう」といったケースです。
上記以外にも集団生活においての困難があれば、医師に伝えます。
職場の朝礼をじっとしたまま聞いておくことができない、順番を守らずに割り込んでしまうといったことも該当するでしょう。
このようなポイントを押さえながら、自分の現在の状況を把握し、適切に医師に話す必要があります。
明確に自分のことを伝えることができるかが不安な場合は、事前にメモに自分の状況を整理して書いたものを用意したり、家族にも同席してもらうことで、客観的な視点からの様子を話してもらうのもよいでしょう。
生活状況の回答が「できる」ばかりだと不支給となるケースも
本当に生活状況に支障がない部分はそれでよいのですが、病気の影響で日常生活に支障をきたしている場合は、ときには指導や助言が必要となるケースは多いものです。
しかし、実際には指導や助言が必要な状況にもかかわらず、「できない自分」を情けなく感じ、無理をして自分の状態を良く伝えたばかりに、医師が誤った判断を記載し、障害年金が不支給となった方たちも少なからずいると言われています。
生活状況の回答が「できる」ばかりに偏ってしまうと、障害年金の支給基準に満たなくなるためです。
障害年金を受給するために、偽りの報告をするのはよくありませんが、障害を抱えながら生活するのは苦しいと感じる部分があれば、自分の将来のためにも本当のことを伝える勇気を持つことが大切です。
また、医師に自分の状態を知ってもらうことは、障害年金受給のためだけでなく、より適切な治療に結びつくと考えています。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士