知的障害・発達障害の初診日について
知的障害(精神遅滞)や発達障害は、基本的に20歳より前に発生するものと定義されています。
知的障害は原則として出生時、発達障害は初めてメンタルの不調など発達障害に関する困りごとで病院にかかった日が初診日となります。
知的障害・発達障害を抱えた方(診断が出ている方)が、うつ病や統合失調症などの精神疾患を発症した場合、初診日はどうなるのでしょうか。
結論を言うと、前発疾病(知的障害・発達障害)が原因の同一疾患とするか、新たに発生した別疾患とするかによって、変わってきます。
前発疾病と同一疾患という扱いであれば、初診日は前述のとおり、知的障害であれば出生時、発達障害であれば初めてメンタルの不調等で医療機関を受診した日になります。
別疾患という扱いになれば、うつ病・統合失調症などに関する症状で、医療機関にかかった日が初診日になるわけです。
具体的な取扱い
具体的な取扱いについては、厚生労働省の疑義照会「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い(情報提供)(給付企No.2011-1)」で、回答されています。
難しい言い回しなどがあるので、それぞれに解説を添えます。
照会内容
知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱いについて伺います。
平成23年6月30日付にて発出された、厚生労働省年金局長通知「国民年金・厚生年金保険障害認定基準の一部改正について」では、「第8節/精神の障害」の「2 認定要領」にて、「D 知的障害」、「E発達障害」のそれぞれの区分でいずれも「また、知的障害(Eでは「発達障害」である。)とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。」とありますが、これまで、知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱いについて具体的に明示されていたものはなく、具体的にはどのような取扱いとなるのかご教示願います。
厚生労働省「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い(情報提供)」(給付企No.2011-1)
照会内容解説
知的障害の認定基準(精神遅滞)と留意点・発達障害の認定基準と留意点でともに、認定基準(2)に記載されている内容についての、問い合わせです。
「その他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。」の判断がどういったものか、具体例を求めています。
回答
知的障害や発達障害と他の精神疾患を併発しているケースについては、障害の特質性から初診日及び障害状態の認定契機のついて次のとおり整理するが、認定に当たっては、これらを目安に発病の経過や症状から総合的に判断する。
- (1)
- うつ病又は統合失調症と診断されていた者に後から発達障害が判明するケースについては、そのほとんどが診断名の変更であり、あらたな疾病が発症したものではないことから別疾病とせず「同一疾病」として扱う。
- (2)
- 発達障害と診断された者に後からうつ病や神経症で精神病様態を併発した場合は、うつ病や精神病様態は、発達障害が起因して発症したものとの考えが一般的であることから「同一疾病」として扱う。
- (3)
- 知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされているので、知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に後から発達障害が診断され障害等級に該当する場合は、原則「同一疾病」として扱う。
例えば、知的障害は3級程度であった者が社会生活に適応できず、発達障害の症状が顕著になった場合などは「同一疾病」とし、事後重症扱いとする。
なお、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者については、発達障害の症状により、はじめて診療を受けた日を初診とし、「別疾病」として扱う- (4)
- 知的障害と診断された者に後からうつ病が発症した場合は、知的障害が起因して発症したという考え方が一般的であることから「同一疾病」とする。
- (5)
- 知的障害と診断された者に後から神経症で精神病様態を併発した場合は「別疾病」とする。
ただし、「統合失調症(F2)」の病態を示している場合は、統合失調症が併発した場合として取り扱い、「そううつ病(気分(感情)障害)(F3)」の病態を示している場合は、うつ病が併発した場合として取り扱う。)- (6)
- 発達障害や知的障害である者に後から統合失調症が発症することは、極めて少ないとされていることから原則「別疾病」とする。
ただし、「同一疾病」と考えられるケースとしては、発達障害や知的障害の症状の中には、稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、このような症状があると作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の傷病名に付してくることがある。したがって、このような場合は、「同一疾病」とする。
厚生労働省「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い(情報提供)」(給付企No.2011-1)
初診日についての回答解説
回答について、初診日がどう変更になるかを補足します。
+の前にあるのが先にあった病名、後ろにあるのが後から判明した病名です。
- (1)うつ病・統合失調症 + 発達障害
- 診断名が変わっただけという判断となり、初診日はうつ病・統合失調症の診断に関連する初診日のままです。
- (2)発達障害 + うつ病や神経症(精神病様態)
- 発達障害が原因と考えられるため、初診日は発達障害の初診日のままです。
- (3)知的障害(2級不該当)&発達障害のケース
- 知的障害と発達障害があり、認定日時点では2級不該当で障害年金の対象とはならなかったものの、発達障害により就労や日常生活がより難しくなった場合は、事後重症となり、初診日は知的障害の初診日(出生日)のままです。
- ただし、知的障害があっても3級不該当程度である場合には、発達障害に関連した受診の初診日が、障害年金申請の初診日になります。
- (4)知的障害 + うつ病
- 知的障害が原因と考えられるため、初診日は知的障害の初診日(出生日)のままです。
なお、この表記ではうつ病だけに限っていますが、当社では「持続性気分障害も「うつ病」と同様に気分障害に分類されており、知的障害を起因と考えるのが一般的である」と主張し、不服申立てにより不支給が取り消されたことがあります。
関連記事:不服申し立てで請求側の主張が認められました。(8) - (5)知的障害 + 神経症(精神病様態)
- 別疾病となるため、初診日は神経症(精神病様態)に関して初めて医療機関を受診した日が初診日となります。
ただし、統合失調症の病態であれば、(6)と同様に取扱い、双極性障害(躁うつ病)の病態であれば、(4)と同様に扱われます。 - (6)発達障害・知的障害 + 統合失調症
- 基本的には別疾病となり、障害年金申請の初診日は統合失調症に関する初診日になります。
ただし、医師が発達障害・知的障害と同一傷病であるとの診断書を作成した場合などは、同一傷病として扱われる可能性があります。
発達障害や知的障害と精神疾患が併発する場合の一例
前発疾病 後発疾病 判定 発達障害 うつ病 同一疾病 発達障害 神経症で精神病様態 同一傷病 うつ病・統合失調症 発達障害 診断名の変更 知的障害(軽度) 発達障害 同一疾患 知的障害 うつ病 同一傷病 知的障害 神経症で精神病様態 別疾患 知的障害・発達障害 統合失調症 前発疾患の病態として出現している場合は同一疾患(確認が必要) 知的障害・発達障害 その他精神疾患 別疾患
厚生労働省「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い(情報提供)」(給付企No.2011-1)
まとめ
この「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取扱い」については、障害年金を専門とする社労士には広く知られていますが、日本年金機構や厚生労働省のサイトでは公開されておらず、把握している医師は多くないでしょう。
例えば、医師が「この精神疾患と前発疾病には、大いに関連性がある」と考えていても、診断書だけでは、この表に応じて別疾患とされることも考えられます。
特に、後発疾病が20歳以後にある場合は、医師の意見書が必要かなど判断のできる社会保険労務士など専門家への相談をおすすめします。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士