以前、うつ病などの気分障害の方が障害年金請求する際、留意すべき点として処方薬量をテーマに書きました。
記事をご覧頂いた方から「抗うつ薬の使用は極力避けていたが、年金審査のために増量した方が良いか」と相談を受けることがあります。
このような誤解を避けるために補足します。
- 処方量が等級判定に影響する可能性があるのは障害厚生年金のみ
- 障害厚生年金の場合、診断書の「日常生活能力の判定・程度」が2級相当であっても、処方が初期量の場合、不利に扱われ3級に決定することがあります。
一方、障害基礎年金請求において処方量が不支給の理由となった事例は把握していません。
障害基礎年金では「3級=不支給」となります。
処方量は念頭におくべきポイントですが、支給か不支給の分かれ目になるほど決定的要因ではありません。
そのため、障害基礎年金を請求する方は処方量について考慮する必要性はありません。
ただし、障害基礎年金でもまったく処方がない場合はその理由を示す必要があります。 - 障害年金審査のためだけの増量はNG
- 医師は症状を注意深く経過観察しながら薬を調整して症状を軽快させていきます。
軽快した状態でも急な断薬は危険(離脱症状に苦しむ)なので、しばらく服薬を続け、ゆっくりと減薬していきます。
また、薬物療法だけでなく、認知行動療法、対人関係療法などの心理療法を組み合わせることもあります。
障害年金審査のためだけに抗うつ薬の増量をしてしまうと、軽快したとしても減薬に時間がかかるなど、当初の治療計画が変わってしまうことが考えられます。
障害年金受給が目的化してしまい、もっと大切な「病気を治す」ことを後回しにしてしまわないよう気をつけましょう。 - 合理的な理由を示せば不利な判定は避けられる
- 「妊娠の希望がある」「副作用(吐き気、食欲不振、下痢など)が強く出る」などが理由で抗うつ薬の処方がない場合は、その事実を診断書に盛り込んでもらえば不利に判定される可能性を低減できます。
診断書の依頼時に口頭でお願いすることが難しい場合は、あらかじめメモにしてお渡しするようにしましょう。
心理療法が中心のクリニックに診断書作成を依頼した際、障害年金審査と処方薬量の関係について説明したところ、それ以降の診断書に次の文言を記載して頂けるようになりました。 -
当院では可能な限り少ない投薬量で、薬物療法以外を中心に治療を行っている。
薬物療法は対症療法であり、精神疾患は薬だけでは治療できない。
したがって当院に於ける投薬量は、疾患や障害の程度と比例していない。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士