今回の事例は、障害等級決定後に保険者(共済組合)が3級→2級に処分変更した例です。
審査請求前のため正確には不服申立てではありませんが、珍しいケースですので事例を公開します。
うつ病の依頼者は、別の社労士事務所に依頼し、△△共済組合に障害厚生年金を請求、3級に決定しました。依頼者は2級を想定していたので、決定した等級(3級)を不服として、当社に依頼されました。
(担当した社労士事務所は共済組合の審査請求には対応できないと断られたようです)
診断書を確認すると2級相当で、日本年金機構の診査では、ほぼ確実に2級に認定される内容でした。
ただし、各共済組合は厚生労働省が策定した認定要領、等級判定ガイドラインに準じているとはしつつも、実際は独自の尺度があり、共済組合ごとに判定のブレが大きいのが特徴です。
特に上部団体(共済組合連合会)が存在しない単一の共済組合はその傾向が顕著です。
当社で請求代理人となり、審査請求の準備を行いました。
ちなみに、厚労省が保険者の場合、不服申立ては審査請求・再審査請求の二審制ですが、共済組合の多くは一審制(決定を覆すチャンスは1度のみ)です。
共済組合は単一の共済組合だったので、独自ルールや診査傾向を知るため、△△共済組合の年金担当者とコミュニケーションを取るところから開始しました。
年金担当者との会話で判明したことが4点ありました。
- 認定医は1人であること
- 審査請求の決定まで1年以上かかること
- 共済組合の判断で他の医師にセカンドオピニオンを求める場合があること
- 審査請求の手前で認定医が再検討した結果、処分(等級)が変更されたことがあること
[3]、[4]の事実を確認できたことが大きな収穫でした。日本年金機構では[4]のような臨機応変な取り扱いはありません。
審査請求は時間と手間がかかり、請求者、共済組合双方の負担は大きいものとなります。推測ですが、円滑な事務手続きの観点からこのような運用をしているのではないかと思います。
審査請求の手前で、「認定医による再検討」と「共済組合判断でセカンドオピニオン」があるので、実質的に三審制ということになります。
早速、意見書を作成し、年金担当者を介して認定医に見てもらいましたが、結果は「現状維持(等級は3級)」でした。
ただし、3級と判断した理由書とともに、「診断書の記載が不十分の場合、修正・追加記入した診断書を再提出すれば再認定する」旨が記載された書面を受けとりました。
依頼者の診察時に同席させてもらい認定医が3級とした理由を説明し、診断書の修正・追加記入について主治医に確認したところ、修正・追記の理解が得られました。
依頼者が主治医と良い関係性を築いていたこが、ここで奏功しました。
修正後の診断書による再認定の結果、処分変更となり2級に決定されました。
障害厚生年金2級は、配偶者加給や子の加算があるので、3級との金額差は3倍になることがあります。依頼者から、「やっと苦しかった様々な思いに一息入れることが出来ます。」と安堵のお言葉を頂けました。
今回は、△△共済組合の年金担当者と意思疎通をスムーズに取れたことで救済案を提示してもらうことができました。
事務的なやり取りであったら臨機応変な対応をしてもらえなかったかもしれません。私たちの業務に求められるスキルは様々ですが、最も大切なのはコミュニケーションスキルだと改めて感じました。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士