事例の概要
先週火曜日、関東信越厚生局の社会保険審査官から、「保険者(国)が初診日不明のため却下とした決定を変更し、障害基礎年金2級の支給と認める」旨の(保険者による処分変更)連絡がありました。
請求人は、群馬県に住む50代男性で、人工透析を導入したため、2年前にご自身で慢性腎不全による障害基礎年金請求をしました。ところが、初診日が昭和59年7月(高校時)であることを確認できないとして却下処分となっていました。
なお、当社は知的障害・精神障害が専門ですが、ご紹介案件など身体障害でも対応することがあります。
年金請求までの経緯
市役所の窓口で相談したところ、糖尿病性の腎障害のため、糖尿病の初診日を特定する必要があると説明がありました。
本人の記憶では、平成19年1月に会社の入社前健診で高血糖を指摘され、入社後にA診療所で糖尿病と診断されたとのことでした。
後日、A診療所で受診状況等証明書を取得し、窓口に提出しました。その受診状況等証明書には、「入社前健診で異常を指摘され、平成19年1月当院初診」の記述があり、初診日証明として十分機能しているものでした。
ところが、窓口担当者は、糖尿病以外にも初診日になり得るとして、平成19年1月以前の病歴を記載するよう求めました。高校生の頃、「インフルエンザ」でB病院に10日間入院したことを伝えると、窓口担当者は、そこが初診日になるから病歴・就労状況等申立書には、そこから書き始めるよう指示がありました。
多少違和感を抱いたようですが、窓口担当者の指示に従い、高校時を初診日として年金請求しました。
なお、B病院のカルテは既に廃棄されていたため、受診状況等証明書は取得できず、代わりに受診状況等証明書を添付できない申立書を提出しました。
当社へのご依頼
ご本人が行った初回の請求結果は、前述のとおりです。さらにご自身で審査請求を行なわれましたが、棄却の決定書が届いたタイミングで当社にご連絡を頂きました。
経緯を伺った際、初診日は高校時(障害基礎年金)ではなく、A診療所の平成19年1月(障害厚生年金)であると理解しました。そうすると、不服申立の制度上、再審査請求で初診日がA診療所の平成19年1月(障害厚生年金)であると主張することはできません。
保険者は請求者が申し立てた初診日(高校時代)を却下処分にしており、手続き上はその処分に対しての不服があると申し立てる制度です。
今回のように、「前回の初診日(高校時)は間違いです。本当の初診日は平成19年1月です。」とする場合は、改めて裁定請求(再請求)を行う必要があります。
一度審査が入ると、誤りでも正すことが難しい
初診日をA診療所の平成19年1月として再請求(障害厚生年金)するにしても課題が残されています。なぜなら、再請求に際し、審査側は前回の請求書類を確認するからです。
そのため、B病院(高校時代)が初診日でないことを立証する必要があります。
課題点として、以下2点が挙げられます。
- B病院の受診は30年以上前であり、その診察内容が糖尿病と因果関係のないものであったと証明することは難しい。
→B病院のカルテが廃棄されているので事実上不可能。 - その後、A診療所に通院するまでの20年間、医療機関の受診はほとんどない。
→B病院とA診療所の間に他院の血液検査数値が基準値以下であれば、B病院が糖尿病の初診日であることが間違いであることを証明できた。
初診日を証明し、障害厚生年金2級に決定
解決のヒントは本人の言葉でした。
高校卒業後、自衛隊に入隊しており、「糖尿病だったら入隊できなかったはず」とのこと。
自衛隊には昭和29年に施行された「自衛官等の採用のための身体検査に関する訓令」があり、不合格疾患として「糖尿病であるもの又はその疑いがあるもの」が定められていました。
再請求に際し、市役所窓口の担当者とのやり取りなど、前回請求で間違った初診日を記載した経緯をまとめた「初診日に関する申立書」を作成しました。資料として「自衛官等の採用のための身体検査に関する訓令」も提出しました。
再請求の結果は却下となりましたが、審査請求でも同じ主張と構成で臨み、保険者による処分変更となり、障害厚生年金2級が決定しました。
糖尿病性の慢性腎不全は、糖尿病から数十年経過してから人工透析に至ることが多く、初診日証明が難しいことが特徴です。今回は窓口担当者の不適切な指示によるものでしたが、あいまいな記憶や思い込みで障害年金請求してしまい却下となるケースが少なくありません。
思わぬ不利益を被る可能性もありますので、初診日は慎重に行うようにしましょう。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士