もくじ
障害年金受給に必要な条件と納付要件
障害年金を受給するためには、3つの要件を満たしている必要があります。
それが、初診日の特定、年金保険料の納付、障害状態です。
今回はそのうち、年金の納付要件についてご紹介します。
なぜ納付要件を問われるのかというと、障害年金は国民年金を財源としている公的年金で、社会保険のひとつであるからです。
保険にあとから入っても保険を受け取れないように、初診日の前日までに一定の国民年金を納付していなければ、障害年金を受け取ることはできません。
なお、厚生年金を支払っている間は、国民年金も自動的に納付されていますので、「厚生年金しか払っていない」と心配する必要はありません。
一部の例外も含め、以下に主な障害年金受給の条件と納付要件について、詳しくお伝えしていきます。
極めて重要なポイント・初診日
年金の納付に関する解説を行う前に、押さえておきたい極めて重要なポイントがあります。
それが初診日です。というのも、初診日がいつであるかにより、どの時点の納付状況を基準とするかが変わってくるためです。
障害年金の受給要件に関わってくるのは、初診日を含む月の前々月(起算月)までの納付状況です。
精神の障害における初診日は言葉どおり、メンタルの不調で初めて医療機関にかかった日のことを言います。ここでいう医療機関は精神科に限りません。めまいや腹痛などの身体症状で最初に内科、耳鼻咽喉科、胃腸科などにかかった場合は、精神科以外であってもそれらの科が初診として扱われることもあります。
先天的な知的障害の場合は、原則として出生日が初診日になります。
障害年金受給のためには必須な日付・時期となりますので、確実に理解しておきましょう。
なお、初診日は証明さえできれば、「2000年夏頃」というような少しあいまいな形でも受給要件を満たせることがあります。
障害年金の納付要件・基本編
原則的に、障害年金の受給申請の際には初診日が属する月の前々月までの間、国民年金を一定期間支払い続けていることが重要な要件となります。
年金は20歳を過ぎた時から払い続ける必要があります。そのため、20歳以降に初診日がある方の場合は、初診日の前々月までの期間に年金が納められていれば、障害年金受給の要件を満たすことになります。
初診日のある月の前々月までに全期間の2/3を納付している
初診日の段階で32歳だとすると、12年間は年金を支払っている期間ということになります。このうち、20歳から初診日のある月の前々月までの2/3以上の期間に保険料を納付し、保険料の支払いが完了している必要があります。
また、保険料を実際に支払っていない場合でも、初診日の前日までに全額免除、納付猶予、学生納付特例を受けるなどの手続きを行っていれば、納付済み期間とみなしてもらえるという点もポイントです。
一部免除(1/4、半額、3/4)は、初診日の前々月において免除された以外の部分の支払いが完了している必要があります。
初診日のある月の前々月までの直近1年を納付している
年金は大前提として支払わなければならないものですが、個別の事情によって初診日の属する月の前々月までの支払期間が2/3以上に満たないというケースも実務上存在します。
こういったケースを救済する特例措置として、初診日の属する前々月から遡ること直近1年の間年金を納めていれば、納付期間が全体の2/3以上に及ばなかったとしても、障害年金の申請が可能となり、要件を満たしているということになります。
ただし、こちらは初診日の段階で65歳未満であることが条件なうえ、2026年(令和8年)までの特例として定められているものですので、注意しておきましょう。
納付要件を満たす必要がなく、そのまま障害年金受給申請ができるケースとは
納付実績にかかわらず、納付要件を満たしていて、そのまま障害年金の受給申請ができるケースがあります。
それは、初診日時点で、未成年だったというケースです。
例えば、18歳の時に精神障害を発症して医療機関にかかった場合、初診日は10代の頃ということになります。20歳以下の場合は、納付要件を満たす必要がありませんので、初診日が20歳前であることの証明さえできれば、納付要件はクリアとなります。
納付要件を満たせていないときに確認すること
障害年金の受給申請の際には、年金の納付実績が重要なポイントとなります。
しかし、経済状況に問題があった、忘れていたなどの理由で決められた期間までの納付ができなかったケースもあるでしょう。
そういった場合でも、すぐに障害年金を諦めなければいけない、というわけではありません。
初診前であれば、先に年金の納付や免除手続きを
当社に障害年金について問い合わせをいただいた段階では、まだ一度もメンタルでの受診をしたことがないどいう方もいます。
発症は前にしていたけれど、病識がないため、受診に繋げていなかったというようなケースで、ご家族からの相談がほとんどです。
そのような場合は、必ず、初診の前日までに、年金の納付や免除の手続きを行ってください。
自分が病気になっているという認識のこと
かつて、事前にこのことを何度もお伝えしていたにも関わらず、「大変だったので、先に受診だけしてきました。肩の荷が降りたので、これから手続きします」と契約にいらした親御さんがいらっしゃいました。
しかし、残念なことに初診日を迎えてから手続きをしても遅いのです。
納付要件が満たせなくなり、お子さんの精神障害での障害年金受給の権利はなくなってしまいました。
やっとこぎ着けた受診でしたので、親御さんの気持ちも理解でき、残念という他ありませんでした。
ただ、今後、他の傷病で受給を考えないとも限りませんし、将来的には老齢年金も関わってきます。
精神障害での受給が難しくても、納付や免除の手続きは行っておくことをおすすめします。
免除の手続きをしているか
経済的な理由により保険料を納めることが難しい場合は、国民年金法第89条によって、年金の支払いを免除するという規定があります。
ただし、この手続きも初診日より前に行われている必要があります。
なお、全額免除の場合は、それだけで納付の扱いとなりますが、一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の場合は免除されていない残りの金額については、納付済みとなっている必要があります。
納付猶予、学生納付特例の制度も障害年金の加入期間に参入されます。
とにかく、初診日前日時点で、「未納」となっていないことが重要です。
前項でも述べましたが、精神障害での受給が難しくても、また別の傷病で請求する可能性がないとは言えませんし、老齢年金の納付期間にも関係します。
精神障害での受給を諦めた方であっても、納付が困難である場合は、免除の手続きは行っておくことをおすすめします。
法定免除手続きをしているか
さきほど、免除は初診日の前日までに手続きを行っていなければ意味がない、というようなことをご案内しました。
しかし、法定免除については、少しだけ異なります。
法定免除については、本来は法定免除の対象となった時点で法定免除の状態となります。
ただ、これは年金記録に自動的に反映されません。そのため、届け出が必要なのです。
「本来は法定免除の対象であった方が、申請を忘れていたので記録が反映されていなかった」というようなケースでは、その期間によっては諦めていた受給要件が満たせるということもあります。
法定免除の対象者
法定免除の対象は、以下の通りです。
- 障害年金1級または2級の受給権のある方
- 生活保護法による生活扶助を受けている方
- 国立または国立以外のハンセン病療養所・国立保養所、その他、厚生労働大臣の指定する施設に収容されている方
障害年金1~2級になった場合は届け出を
上記にあるとおり、障害年金2級以上を受給した場合は法定免除の対象となります。
現時点では自動で反映はされませんので、忘れずに届け出を行ってください。
なお、法定免除は老齢年金の減額を防ぐために、追納することも可能です。
まとめ
障害年金受給には、年金の納付に関する条件や要件が存在します。
この要件を満たしていなければ、障害年金受給の申請を行ったとしても、受給資格を満たしていない決定が出てしまう可能性が極めて高くなります。
そのため、現在までの状況をしっかりと確認したうえで、障害年金受給の申請を進めていきましょう。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士