もくじ
障害年金が受給できないケースについて
精神障害による障害年金は、以下のような理由で受給ができないことがあります。
一定の障害の状態にない場合
障害年金を受給するには、身体や知的、精神に関する疾患を持っていることが必要です。
しかし、病気を経験しただけでは受給の対象にはなりません。
対象となるのは、病気の治療を一定期間続けたけれど、回復に至らず、現在もその症状が残っている影響で就労や日常生活に支障をきたしている人となります。
そのため、現在傷病名がついていても、就労や生活に大きな制限がない場合は受給の対象になりません。
この一定期間については、精神障害の場合、初診日から1年6か月を経過している必要があります。
この初診日から1年6か月の時点を、障害認定日といいます。
認定日時点に一定以上の障害状態になくても、後に再燃・悪化した場合は、障害年金の対象です。
対象外の傷病名である場合
精神障害の場合は、実際に病気の症状が続いているけれども、障害認定基準に当てはまらない次のような疾患もあります。
神経系の障害(パニック障害や適応障害など)
神経系の障害は、本人に病気の自覚があることが多く、主体的な治療が可能で治癒する確率も高いとされているため、原則的に障害認定はされません。
ただし、妄想や幻覚を伴う場合は場合によって認定されるケースもありますので、その場合は医師に相談してみると良いでしょう。
パーソナリティー障害(人格障害)
パーソナリティー障害も、原則として認められません。
しかし、パーソナリティー障害の種類や妄想・幻聴が生じている場合は、認定されることもあるとされています。
詳しくは医師や社労士にご相談いただくことをおすすめします。
自力で問題なく働くことができる
障害年金は本人が働いていても、受給することができます。しかし、精神障害の場合、それはある程度の制限下になることが多いでものです。
例えば、以下のようなケースに該当している必要があります。
- 長時間は病気の影響で働けない。
- 毎日通勤するのは心身が疲労し、仕事のパフォーマンスが低下するので、週に数回しか仕事ができない
- 変化が苦手なため、反復的な作業しかできない
心身ともに病気の影響が少なく、フルタイムなどで活力的に働ける場合は対象とならない可能性が高いです。
服薬をしておらず、その必要もない場合
精神疾患を抱え、日常生活に支障が出ているのなら、多くの場合は服薬が必要となります。
ただ、病気ではあるけれども健康状態から考えて、服薬せずとも生活に問題がないケースも挙げられます。その場合は障害年金が受給できません。
なお、服薬できない合理的な理由がある場合は考慮されます。
知的障害については服薬の有無は問われません。
病院に通院しておらず、治療を受けていない
病気があり、そのせいで日常生活を送ることが不自由になっているのなら、原則的に通院治療が必要です。
しかし、それをしていないのなら、障害がある状態とはとらえられません。また、通院していないということは、医師の診察も受けておらず、診断名も分からないので、障害かどうかの判断もできないということになります。
知的障害の場合は、定期的な通院がなくても影響ありません。
なお、通院・服薬が不要な状態が一定期間以上続いている場合、再燃したときに「社会的治癒」の対象となるかもしれないことは、覚えておくといいかもしれません。
国民年金保険を2/3以上納めていない
障害年金を受給するには、障害認定日の前日までに国民年金保険料を2/3以上納めておく必要があります。
なぜなら、障害年金は社会保険料が財源となっているからです。
ただし、初診日が20歳以下の場合は、保険料の納付の有無は問われません。
初診日の証明ができない場合
障害年金を受給するには、初診日の証明が必ず必要になります。
初診日とは、心身の不調により初めて病院を受診した日のことです。障害年金を申請する際には、申請書類に医師から初診日を記載してもらわなければなりません。
しかし、受診から時が経っているため、初診の病院で自分のカルテが残っていなかったり、当時の病院が閉院しているなどの理由で初診日を明確にできない場合は、年金受給ができないのです。
障害年金が受給できないと思われたケースの事例
ただ、初診日が分からなくても、場合によっては証明する方法があります。その方法を、以下の事例で具体的にお話しします。
双極性障害を持つ田中さん(仮名)は、現在治療のため病院に通院していますが、気分の波が激しく、躁状態の時は1日で給料をすべて使い果たしてしまうなどの症状が出るため、日常生活に支障をきたすことがよくあります。うつ状態の時は仕事に出るのが苦痛で、床から起き上がれないなどの状態でした。
そのため、仕事が長続きせず、職を転々とする日々を送っています。
田中さんの主治医はこのような状態が続くため、経済的不安を緩和した方が良いと障害年金の申請を提案しました。
ところが、田中さんが最初に受診した病院が水害で被災を受け、カルテ庫にあった患者カルテがすべて流されてしまい、その後病院は閉院。初診日の証明ができず困っていました。田中さん自身も初診日を覚えていませんでした。
しかし、いろいろと探してみたところ、初診病院の診察券が見つかり、そこに初診日の記載があったため、初診日が判明しました。
また、家族にも当時のことを訪ねたところ、母親が日記に娘が初めて受診した時のことを書いていたため、初診日がはっきりしたのです。
この事例のように、自分の元に何かしらの初診日の証拠が残っている場合があるので、探してみることで証明できるケースもあります。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士