事例の概要
先週、関東信越厚生局社会保険審査官より、審査請求(一審)の決定書が届きました。
結果は、請求側の主張が認められ、保険者(厚生労働大臣)の不支給決定を取り消し、障害基礎年金2級を支給する旨が記載されていました。
保険者が自ら誤りを認める「処分変更」は珍しくないのですが、上級庁が行う審査請求の「容認」は4年振りでした。
ご依頼者は千葉県に住む60代の方で「てんかん」での障害基礎年金を希望しており、初回相談時には既に診断書を取得していました。当社には病歴・就労状況等申立書等の書類作成と請求手続きをご依頼頂きました。
てんかんの障害認定基準に記載されている2級の例示は以下のとおりです。
「十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回以上、もしくは、C又はDが月に1回以上あり、かつ、日常生活が著しい制限を受けるもの」
発作のタイプは以下の通り
A:意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
B:意識障害の有無を問わず、転倒する発作
C:意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
D:意識障害はないが、随意運動が失われる発作
診断書を確認すると、てんかん発作タイプは「A」、発作の頻度は「週平均1-2回程度」。
《イ現症時の状態の程度・症状》については「突然意識が飛ぶ発作が週に1~2回程ある。物が考えられない。イライラが強い。仕事中でも発作がある為、就労は困難である。日常生活は家事が主体となっている。寝つきが悪い為、昼間はぼんやりしている」と記載されていました。
また、《⑪現症時の日常生活活動能力及び労働能力》は「短時間の意識消失発作の頻度が高く、他人との交流が不十分となり、仕事に集中できないなどの問題がある。それに加えて、記銘力の低下、耳鳴、頭痛などで、さらに仕事の効率が低下する」「十分理解ある環境での単純作業程度しか出来ない」と記載されていました。
診断書内容は障害認定基準2級に例示されている以上の障害状態であることがわかりましたが、ひとつだけ懸念点がありました。それは「日常生活能力の判定」が全体的に軽く、全7項目のうち1番軽い「できる」が3項目、2番目に軽い「おおむねできるが時には助言や指導を必要とする」が3項目、3番目に軽い「助言や指導があればできる」が1項目でした。
発作を起こしていない時(発作間欠期)は、おおむね判定のとおりなのですが、発作時を含めると「日常生活能力の判定」はもっと重くなるはずで、そのことは診断書全体を見れば明らかでした。念のため、病歴就労状況等申立書にも発作時を含めた日常生活状況を盛り込み、障害基礎年金の請求を行いました。
結果は不支給(2級不該当)でした。
不支給決定通知書に添付された【判断の根拠となった事実関係等】には次の記載がありました。(下線は筆者による)
・「日常生活能力の程度」は「(3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。」であり、「日常生活能力の判定」は全7項目のうち
「助言や指導をしてもできない若しくは行わない」が0項目、「助言や指導があればできる」が1項目、「おおむねできるが時には助言や指導を必要とする」が3項目、「できる」が3項目であること。
・てんかん発作のタイプは「A」、発作の頻度は「週平均1-2回程度」であること。
・家庭及び社会生活について、現在の生活環境は「在宅」、同居の有無は「無」であること。
・「突然意識が飛ぶ発作が週に1-2回程ある。物が考えられない。イライラが強い。仕事中でも発作がある為、就労は困難である。日常生活は家事が主体となっている」こと。
請求時に診断書の記載ミスで、実際は同居「有」であることを住民票添付により申立済。
4つの理由が示されていますが、不支給にしたと思われる箇所は「日常生活能力の判定」(下線部分)のみです。
てんかんは、基本的に「発作のタイプ」と「頻度」で等級を判定し、「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」の項目は重視されない傾向にあります。
「精神障害に係る等級判定ガイドライン」から「てんかん」だけが対象外とされている理由とも繋がります。
当社の対応
てんかん発作のタイプと頻度の高さからすると、発作間欠期においても日常生活動作が損なわれ、社会的不利益を被っており、2級の例示「日常生活が著しい制限を受けるもの」に該当すると主張しました。
処分取り消しにより障害基礎年金2級に決定
不支給決定が取り消され、障害基礎年金2級が決定しました。
通常、てんかんにおいては、ほかの精神障害に比べ、「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」は重視されない傾向にあります。本件よりも「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」が軽い方でも2級決定している事例は多くあります。しかし、認定医の個人差があるのも事実で、本件のように厳しく審査されてしまうことがあります。
そのような場合でも、本件のように不服申し立て手続きによって決定が覆る可能性はありますので、諦める前に障害年金に強い社会保険労務士等に相談することをお勧めします。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士