事例の概要
先週火曜日(8月2日)、関東信越厚生局の社会保険審査官から、「保険者(国)が初診日不明のため却下とした決定を変更し、障害厚生年金2級の支給と認める」旨の(保険者による処分変更)連絡がありました。
年金請求までの経緯
平成19年(19才)4月頃、厚生年金加入期間に実家近くのA心療内科を数回受診。薬を服用しても良くならないため、通院を中断、その後は職を転々とし、国民年金保険料はほとんどの期間未納でした。
平成28年(29才)頃、当時住んでいた他県のB精神科を2回受診。その後、C精神科、D精神科を経て現在は実家からE精神科に通院しています。
障害年金請求に際し、年金保険料の納付状況を確認すると、保険料未納期間が長く、B精神科を受診した平成28年を初診日とした場合、保険料納付要件が満たせません。
そのため、A心療内科を受診した平成19年を初診日とする必要がありましたが、A心療内科は閉院しており受診状況等証明書(初診日証明)を取得することができませんでした。
年金事務所に相談すると、当時の受診状況を知る人物2人から「初診日に関する第三者からの申立書(第三者証明)」を貰うことを指示されました。
その他、A心療内科で受診状況等証明書が取得できない場合はB精神科から取得する必要がありました。B精神科に確認すると来院を求められ、郵送では受付けできないとのことでした。ご本人は体調が優れず、とても他県まで足を運ぶことはできませんでした。
仕方なくB精神科の受診状況等証明書は諦め、郵送で対応してもらえる、C精神科から受診状況等証明書を取得、障害年金請求時に友人2人の第三者証明と共に提出しました。
結果は却下、理由は「提出されている書類では、当該請求にかかる傷病(うつ病)の初診日が平成19年4月であることを確認することができないため」と記載されていました。
当社へのご依頼
ご自身で審査請求を行ない棄却決定書が届いて2ヵ月近く経過した時点で当社へご依頼となりました。
再審査請求の期限は審査請求の決定書謄本が送付された翌日から起算して2ヵ月以内です。
期限が迫っていたので具体的対策を講じる前に、再審査請求書の「趣旨及び理由」欄に「後送」と記入して社会保険審査会に送付しました。
初診日の証明
受診状況等証明書が取得できなかったB精神科のカルテにA心療内科の受診時期が記載されれば初診日認定されると判断しました。
根拠となるのは、平成27年10月1日より施行された「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」(以下、「初診日の新取扱い」)の第3です。
1.請求者の申立てに基づき医療機関が過去に作成した資料の取扱いについて
請求の5年以上前に医療機関が作成した資料(診療録等)に請求者申立ての初診日が記載されている場合には、初診日と認めることができることとする。
また、当該資料が、請求の5年以上前ではないが相当程度前である場合については、請求者申立ての初診日について参考となる他の資料とあわせて初診日を認めることができることとする。
ただし、この場合に参考となる他の資料としては、診察券や入院記録など、請求者の申立て以外の記録を根拠として初診日を推定することが可能となる資料が必要であり、請求者又は請求者の家族等の申立てに基づく第三者証明は含まれないものとする。
障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いにつ
B精神科を訪問、カルテを確認させてもらうと、「19歳のとき、うつで心療内科にかかっていたことがある高校卒業後の就職先とプライベートで色々あって・・・。」の記述がありました。19歳の始期と終期のどちらも厚生年金期間のため、電子カルテのハードコピーを受領しました。
今回のケースでは、B精神科を受診してから請求まで4年しか経過しておらず、「初診日の新取扱い」の下線部分「請求の5年以上前ではないが相当程度前」に該当するかどうかが多少心配ではありました。
幸運なことに、ご自宅からA心療内科のお薬手帳も見つかり、「初診日の新取扱い」の「参考となる他の資料」に相当すると判断しました。
後送としていた「趣旨及び理由」を記入し、電子カルテのハードコピー(B精神科)とA心療内科のお薬手帳を添付して送付しました。
処分変更により障害厚生年金2級に決定
平成19年4月を初診日として、障害厚生年金2級が決定しました。
初診日証明が困難な場合、今回のように年金事務所から第三者証明を指示されるケースが多いですが、初めての方にとって第三者証明はハードルが高すぎると感じています。
年間500件以上障害年金を請求している私たちでも「第三者証明は最終手段」と考えており、年間でわずか1~2件のみで、大抵はその手前で解決します。
まずは「初診日の新取扱い」を参考に、後医のカルテや精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療の申請時に作成してもらった診断書の内容を確認してみてください。
自分では対応できないと思ったら、早めに専門の社労士へ相談することをお勧めします。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士