もくじ
うつ病で障害年金受給するときのデメリット
障害年金の受給はメリットも多いですが、わずかながらデメリットも存在します。
本ページでは、うつ病で申請する際に考えられるデメリットについてご紹介します。
障害年金の全体的なメリット・デメリットについては、障害年金を受給するメリットとデメリットをご覧ください。
寡婦年金と死亡一時金が受け取れなくなる
寡婦年金とは、第1号被保険者(自営業等)として保険料納付期間と保険料免除期間を合わせて10年以上ある夫が死亡したとき、夫により生計を維持されていた妻が60歳から65歳の期間に受給できる年金です。
ただし、死亡した夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給したことがある場合は寡婦年金を受け取ることができません。
こちらはうつ病に限らず、障害年金全般にいえます。
死亡一時金は、第1号被保険者(自営業等)としての保険料納付済期間(任意加入被保険者を含む)が3年以上ある者が死亡したときに遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)に支給されます。
こちらも寡婦年金と同様に、死亡した者が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給したことがある場合、遺族は死亡一時金を受け取ることができません。
扶養から外れる場合がある
税金面では、障害年金は非課税所得ですので、収入が障害年金のみの場合は確定申告の必要はありません。
一方、社会保険(健康保険と年金)では、被扶養者(年金制度では第3号被保険者)となっている場合には注意が必要です。
障害年金のみ、または他の収入と合わせて180万円以上になると、被扶養者資格が外れ、国民健康保険と国民年金に加入し、新たに保険料を支払うことになります。
ただし、障害基礎年金を受け取っている方は法定免除となり、国民年金保険料の納付を全額免除されます。
障害年金の受給額が180万円以上になる可能性があるのが、障害厚生年金2級以上の場合です。
2級以上に認定されると、障害年金とは別に年金生活者支援給付金(年間約6万円)を受給できます。
障害年金+年金生活者支援給付金の合計額が180万円以上となるケースでは、社会保険料の負担を考慮し、あえて年金生活者支援給付金の請求を行なわない(180万円未満に抑える)ことも選択できます。
会社に知られてしまう?
うつ病による障害年金の受給を考える方の中には、休職中であるなど、会社に在籍したままである方は少なくありません。
「障害年金受給は会社に知られてしまうのか?」という不安もよくお伺いします。
障害年金の受給は、ご本人が申告しない限り、基本的には会社や周囲に知られることはありません。
基本的に、とお答えしたのは、障害年金を知られてしまう例外があるためです。
主に例外となるのは下記のケースです。
- 傷病手当金を受給中の場合
- 共済組合に加入している場合
傷病手当金を受給中の場合
傷病手当金は、障害年金と重複して受け取ることができません。
もし、同時期に受給していた場合、傷病手当金の返済が必要となってきます。
その際に、会社が関わると、障害年金の受給が知られてしまう、ということになります。
共済組合に加入している場合
共済年金は厚生年金と一元化されましたが、障害年金の審査については現在も各共済組合が行います。
厚生年金と異なり、必要な書類を用意する際、多くの場合、関係部署などから情報提供を受けなければなりません。
そのため、社内の誰かしらは知ってしまうことになります。
ただ、特に知られたくないであろう診断書など、一部の書類について、共済組合への直接送付ができることがあります。
回復を目指す気持ちがなくなる?
病気を患うことで結果的に有利な立場になったり、利益を得ることを「疾病利得」と呼びます。また、ひとが生まれながらに持っているケガや病気を治す力・機能を「自己治癒力」と呼びます。
疾病利得があると、自己治癒力を低減させるという考え方があり、神経症(適応障害やパニック障害など)が障害年金の対象外となっている理由のひとつとして挙げられています。
数年前のことですが、「障害年金の診断書作成を主治医に依頼したが断られた」というご相談を受けました。相談者から主治医に理由を聞いてもらうと、「障害年金をもらうと(経済的に)安心してしまい、自ら治そうとしなくなる」と説明されました。相談者が持つ年金請求の権利に対する姿勢の是非は別にして、主治医の説明は疾病利得にあたります。
では、ある方(Aさん)が職場での人間関係(パワハラなど)が原因でうつ病を発症し、休職して自宅療養しているとします。職場にストレス要因があるので、症状が軽快傾向にあってもAさんは復職を先延ばししています。このような状況も疾病利得をいえるでしょうか。
問題の本質は、職場環境にあります。Aさんが復職しても、職場環境が変わらない限り、Aさんの病状を悪化させることは明白です。復職を先送りにするAさんの心理状態は疾病利得ではなく、防衛機制(自己を守るための無意識に起こる精神的な防衛メカニズム)にあたります。
このように、疾病利得と防衛機制は異なりますが、混同されることも多く、「甘えている」とか「怠けている」などと周囲に誤解されてしまうことがあります。
当社では、年3,000件以上のご相談を受けています。その中で疾病利得にあてはまりそうな方はわずかです。ほとんどは、治療に専念するために、一時的に傷病手当金や障害年金などの社会保険制度を必要としていて、ゆくゆくは社会復帰を目指している方たちです。
フラッシュバックの可能性
うつ病は、大きなショック体験や継続的なストレスをきっかけに発症することがあります。障害年金請求には、病歴・就労状況等申立書の作成が必須ですが、この作成過程で過去を思い出さなければなりません。辛い過去を思い出し、フラッシュバック(強いトラウマの原因となった記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、夢に見たりする現象)が起こることも考えられます。
社会保険労務士へ申請代行を依頼する場合も、体調不良になったきっかけから現在までの病状や就労状況などの情報は、提供していただく必要があります。フラッシュバックの危険性がある場合は、経緯を知っている家族や知人を介して手続きを進めることも有効です。
書類作成や役所・医療機関対応の負担が重い
障害年金手続きに必要な、診断書などの書類取得や病歴・就労状況等申立書の作成には、かなりの時間がかかります。
特にうつ病などの精神疾患の場合、通院が長期化したり転院を繰り返している方も多く、ご本人や周囲で支えるご家族にとって非常に大きな負担です。
以下に、かかる期間の目安をご案内します。
役所とのやり取りにかかるおおよその時間
年金事務所で手続きを行う際は、初回相談を含め、すべての手続きに3~6回は足を運ぶことになります。そして、その都度3~6週間先の予約を取ることになりますので、完了まで3~6か月を要することが一般的です。
障害基礎年金の請求は、お住まいの市区町村(国民年金課等)でも手続きは可能です。その場合は、年金事務所ほど混んでいませんので、上記よりも1か月程度の時間短縮は可能です。
受診状況等証明書作成依頼にかかるおおよその時間
初診医療機関が現在と異なる場合、まずは初診医療機関から受診状況等証明書を発行してもらいます。受診状況等証明書の発行に要する時間は2週間前後です。取得した受診状況等証明書を年金事務所に提出し、障害年金の初診日と認められるか確認してもらいます。その後、現在の障害状態を示す診断書(遡及請求は2枚、事後重症は1枚)を受け取ります。
病歴・就労状況等申立書の作成にかかるおおよその時間
次に病歴・就労状況等申立書を作成します。
診断書依頼よりも先に行うのは、医療機関から提出を求められるケースがあるからです。
診断書は、発病から現在までの病歴等を書く項目があり、基本的にはカルテが基になります。しかし、カルテの病歴情報が不十分な場合には、カルテ内容を補うことを目的に患者へ提出を求めることがあります。
病歴・就労状況等証明書の作成に要する時間は、早い方で数時間、病歴が長い方はスムーズにいって1週間程度かかる方もいます。
ただし、この時点では完全なものに仕上げる必要はなく、草案で構いません。診断書の完成を待ってから、病歴や症状などの整合性に留意して審査(日本年金機構)への提出用病歴・就労状況等証明書を完成させます。
診断書作成依頼にかかるおおよその時間
診断書は現在の医療機関と、遡及請求を行う場合は障害認定日に受診していた医療機関にそれぞれ依頼します。かかっていたのが同一の医療機関であっても、合計2枚書いてもらいます。
診断書依頼の順番については遡及請求は診断書依頼の順番が大事ですをご覧ください。
なお、診断書の作成に要する時間は医療機関1か所あたり1か月前後です。
ただし、医療機関によって差が大きく、依頼した当日に受け取れるところもあれば、当社事例で1年以上要した医療機関もあります。
就労先等が発行する証明書依頼にかかるおおよその時間
休職中や、障害者雇用等で就労している場合には、休職証明書や障害者雇用の証明書が必要になります。会社により異なりますが、概ね1週間程度が目安です。
書類作成のまとめ
いかがでしたでしょうか。
障害年金の手続きは、揃える書類が多く役所や医療機関との折衝にも時間がかかることがお分かりいただけたのではないでしょうか。なお、ここで挙げた書類は一般的な手続きに必要なもので、初診日の証明が困難なケースでは、さらに準備する書類と時間を要します。
うつ病の方が、これらの対応を行うことは大変な重荷となり、病状を悪化させる要因となります。だからといって、中途半端な書類で障害年金審査に臨むことは危険です。例えば、初診日が特定できないことにより却下となり、今後障害年金を受給できなくなることもあります。
ご自身やご家族では難しいと感じたら、障害年金専門の社会保険労務士へ申請代行を依頼することも検討してみてください。しっかりとした事務所であれば、上に示した手続きの8割以上は任せることができますし、場合によっては受給額が増えることもあります。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士